STORY

vol.06

ドラ・トーザン

国際ジャーナリスト・
エッセイスト

いくつもの困難や危機を乗り越え、自分の生き方を選びとってきた人たち。
「ゆふてん」は人それぞれの場所にあります。

今回のゲストは、“日本とフランスの架け橋”として活躍する国際ジャーナリストのドラ・トーザンさん。 生粋のパリジェンヌであるドラさんが日本に来て、今年で20年以上。最近は国内で都心と地方で二拠点生活を始める人も出てきましたが、ドラさんはパリと神楽坂を行ったり来たりしながら、双方の国の魅力や課題を生き生きとした言葉で伝えてきました。
そして今、世界を舞台に「個」と「調和」を両立して生きているドラさんに、国籍、年齢、性別を超えてあらためて関心が集まっています。
常に一つの視点だけに捉われず、しなやかに生きる彼女ならではの「ゆふてん」を尋ねます。

PROFILE

ドラ・トーザン Dora Tauzin

国際ジャーナリスト。エッセイスト。ソルボンヌ大学にて修士号取得後、パリ政治学院(Institut d’Etudes Politiques de Paris, Sciences-Po)成績優秀者の認定を受けて卒業。
5カ国語を話し、ベルリン、ロンドン、ニューヨークで暮らした経験のある国際人。 国連広報部勤務後、NHKテレビ「フランス語会話」への5年に渡る出演がきっかけで日本に住むようになる。慶応義塾大学講師などを経て、現在、アンスティチュ・フランセ、アカデミー・デュ・ヴァンなどで講師を務めながら、日本とフランスの架け橋として、新聞、雑誌への執筆や、講演など各方面で活躍中。テレビ、ラジオ番組のコメンテーター、レポーターとしての出演も多い。『フランス人は年をとるほど美しい』(大和書房)、『フランス人は「ママより女」』 (小学館文庫) 、『愛される男の自分革命: 人生が100倍輝く フランス人の極意』(徳間書店)など著書多数。2009年文化庁より長官表彰(文化発信部門)。2015年フランス政府よりレジオンドヌール勲章シュバリエを受章。
ドラ・トーザン ウェブサイト : http://www.doratauzin.net/

「Non,merci.(いいえ、ありがとう。)」のバランス感覚

ドラさんが来日されてから20年間が経ちましたが、ドラさんは今の日本女性を取り巻く状況についてどう考えていますか?

ドラ

私は女性問題をテーマとして扱うことも多いですが、20年間の行き来の中での一番の実感は、日本とフランスの違いは女性問題だけに限らないということです。他人の目を気にせず、自分らしく生きることがフランス人は得意だし、日本人はその反対。でもフランスはちょっと個人主義が行き過ぎている。これがすべての前提だと思います。

その上で日本においては、自分の人生を楽しむには “断る勇気”が必要だと感じます。「やりたくないこと、聞きたくないことがあったら我慢せず断る」ことをもっと意識した方がいい。会社の飲み会や同窓会のように、慣習的に人と集まる機会が日本にはたくさんあるから。自分の心を無視して、周りに合わせ続けているとストレスが溜まります。これは女性に限らず男性も、です。

「周囲の目を気にして、合わせ過ぎる」ということが、日本の諸問題の根底にあると?

ドラ

小さなことですが、言葉にもその傾向は表れていると感じます。例えば、日本人は日常的に「はい」は言っても、「いいえ」はあまり使わないですよね。あるいは、「これ欲しいですか?」と聞かれた時に、「結構です」と答えたり。これには私も初め、イエスなのかノーなのか分からず戸惑いました。他者との関係を重視するあまり、はっきり否定することを避けるんですね。

一方、フランスは「Non,merci.」の国。「Non」は強い言葉だけれど、その後で「ありがとう」と補足してバランスをとります。私も昔はもうちょっと性格がはっきりしていたけれど、日本に来て「調和」の素晴らしさを知りました。個人主義と、他者との調和とのバランスがとれた生き方をしたいというのが私の考えです。

日本人としては、「他者との調和を大切にする」という美点を大事に、西洋の「自分らしさを尊重する」という精神もうまく取り入れられたら良いのですが。

ドラ

最近の私の日本の読者は、学生などの非常に若い女性とともに、30代くらいの男性が増えてきました。先日、この近くの本屋さん(編集部註:収録を行った飯田橋のカナルカフェ近くの本屋「芳進堂」のこと)でイベントをしたときも、男性の来場者が多くて驚きました。今、"働き方改革"が叫ばれていますが、私のライフスタイルを通して、多くの人が「自分らしく生きる」ことを模索しているのではないでしょうか。

エッセイでは「パートナーにプレゼントを贈ろう!」なんて書いたりしていますから、 「ガールフレンドのために読んでいる」と男性読者は言いますが、本当は男性も自分のために新しい生き方や男女関係について知りたいのではないかと思います。私としても、自分の本は「人間向き」に書いているつもりで、「女性向き」に限定するつもりはありません。

女性をめぐる問題は男性も同じだし、ひいては日本社会全体の問題だと。

ドラ

そうです。20年前と比べると男性も女性をリスペクトするようになってきたし、社会も様々な生き方を認めるようになってきました。そういう意味で日本人女性のおかれている状況は良い方に変わった面もあります。でも、女性が仕事と育児とプライベートをそれぞれバランスよくやるのはまだまだ難しい状況のようにみえます。

大学に行って、社会でどんなに活躍してもしばらくすると「そろそろ結婚…」というプレッシャーがある。そして、子どもができたらキャリアを中断し、復帰してもなかなか前と同じような仕事ができなかったり、パートや非正規雇用になったりすることもある。一方、面白い仕事をし続けようとすると男性と同じように長時間労働に縛られ、プライベートがなくなってストレスが溜まる。日本は女性の生き方のパターンが少ないような気がします。

「婚活」という言葉が流行するぐらいですから、まだまだ一つのパターンに縛られている部分は大きそうです。

ドラ

フランスでは現在、結婚をしていない人の方が多数派で、婚外子も半分以上の割合です。同棲、PACS(同性または異性の成人2名による共同生活を結ぶために締結される契約。税金の控除や財産権の引き継ぎなどで結婚と同等の扱いを受けることができる)、離婚や再婚を経ての拡大家族と色々なチョイスがあるし、実際にやっている人も多いのです。また、管理職の40%以上が女性で、性別は関係なく、人間だから仕事を持つのは当たり前になっています。

その結果、「結婚が減少しているのに出生率は伸び続け、子どもができても仕事を辞める女性がほとんどいない」という"フレンチ・パラドックス"と呼ばれる状況があります。日本は女性の社会進出が恵まれた状況とはまだいえないうえ、少子化が大変問題になっていて、しかもプライベートが充実していない。これはちょっとバランスが良くないですね。

"女性らしさ"を大事にすることは楽しい

2016年に世界経済フォーラムが発表した日本のジェンダーギャップ(男女平等)指数は142か国中111位でした。

ドラ

大変残念なことです。日本はGDPが世界で第3位(2016年度、以下同)と経済的に発展した国ですが、体質として保守的なところがありますね。フランスのGDPは第6位ですがヴァカンスは世界で一番長く取得するし、男女平等への意識も高いです。フランスでは、個人が幸せになることが、最終的に国全体の豊かさにもつながると考えられているから。日本も女性の幸せをもっと考えるようになれば、さらに繁栄するでしょう。

でも、フランスもかつては保守的だったのです。1970年代までは、女性は夫の許可なく仕事に就くことができなかったし、離婚も避妊も中絶も許されない社会でした。それが、市民発のさまざま革命運動を経て、今のフランス女性がいます。日本人も本気で変えようとすれば、きっと状況を変えられますよ。

そのための第一歩としては何があると考えられますか?

ドラ

私は「時間」への意識が重要だと考えています。近著の『フランス式いつでもどこでも自分らしく』(三笠書房)でも時間の使い方について、ページを多く割きました。フランスは国の制度で週に35時間しか働けませんが、それでGDPが6位であるとすれば、その生産性は高いと思います。働くときは働く、遊ぶときは遊ぶ、とメリハリがあるのです。日本もせめて夜7時に仕事が終わればプライベートでリフレッシュできて、「また働きたい」と次の日への活力も生まれるでしょう。

時間がうまく使えたら、恋愛やパートナーシップも改善されそうですね。

ドラ

これまたフレンチ・パラドックスなのですが「フランス男性は、仕事の世界では男女平等、プライベートになるとジェントルマン」というものがあります。最近は、日本の男性も最近は紳士的になってきたと思いますが、どんなに多忙なビジネスウーマンもプライベートでは、"女性らしさ"を大事にしたいですよね。やっぱり女性らしいってことは楽しいものだから。
男性に褒め言葉をもらったとしたら、「別にそんなことない」「今日はどうしたの?」なんて言わないで。もっと自然に「ありがとう」「嬉しい」とか、お互いの楽しい関係を優先すればいいのです。

「楽しさ」はキーワードですね。どちらかというと日本人は世間の目を意識した「正しさ」を優先しがちかもしれません。

ドラ

そうですね。家事においても、日本女性は自分の考える"正しい役割"を演じている印象があります。もちろん男性側にも色々問題はありますが、女性自身が「私がやります」といって、をシェアせず自分で完璧にしようとし過ぎています。男性にも家事のスタイルがありますから、それを尊重してあげる気持ちも必要です。

マザーコンプレックスの問題も、日本女性が役割を演じ過ぎるという側面の影響もあると思います。女性だけがずっと台所にいたりするのも、ヨーロッパ人にはよく分からない伝統です。日本では男性が「ビールちょうだい」と言うと女性が取りにいきますが、ヨーロッパでは考えられません。飲みたければ自分で取りにいきます。むしろ女性のグラスが空いていると何か飲みたいか、と聞いてくれます。

やはり日本人男性は、「会社員としての自分」など社会的な役割を演じ過ぎているのでしょうか?

ドラ

それはヨーロッパの男性もそうです。ただ、日本男性の特色は、どんなに偉い肩書きの人でも色々話していくうちに、その人の子どもっぽい部分が顔を出すということです。そして、心の根っこが優しいわね。私はそのギャップが可愛らしくて好きです。人は大人になっても子どもの部分を忘れてはいけないと思うの。だから、日本女性は男性の少年心をぜひ褒めてあげて! 私も自分のことを5歳半だと思っていて、もうすぐ6歳です(笑)。

日本男性の根っこには繊細な優しさがあるというのに、それが社会で今いち活かされていない気がします。

ドラ

これも周りの目を気にするからでしょう。例えば、“イクメン”のように子育てを楽しんでいる男性はいるし、本当は子どもといるのが大好きな家庭的な男性もいっぱいいる。でも、周りから「男性的ではないようにみえるのではないか」というストッパーがじゃまをする。だから、男性の自然な気持ちを女性も受け止めることが大事です。男性が家事をしてもいい。料理が好きだったら男性がやればいい、楽しんでそれをやれる人がやればいいんです。

リラックス法も自分で決める

役割を演じ過ぎたり、周囲の目を気にし過ぎるのは、自分で責任を取ることや、孤独になることが怖いからではないかと思います。ドラさんは自由で自立した生き方をされていますが、責任や孤独を恐れることはあるのでしょうか?

ドラ

自由と孤独、自立と責任はセットです。人生は変化の連続ですから、私もそれから生じる様々を恐れることは常にあります。自分で色々決断してきたといっても、それで本当に良かったのか不安になることもあります。フランスと日本に半分ずつ住むことを始めた頃、「ドラ、どっちかに決めたら?」と周りによく言われていました。今でこそ移動も簡単にできるけど、当時はすごく大変だったので。でもあらためて振り返って、「自分にぴったり」の生き方であったと感じています。

今も新しいライフスタイルを考えていて、何が一番自分にとって良いものか悩んでいます。そういうときは人と話した方がいいと思います。人の意見に従う必要はないけれど、自分にはなかったアイデアが降りて来ることもあるから。そのためには友情や家族関係も大事。人と話していると自然と視野が広くなりますから。

他者とのコミュニケーションにおける、ドラさんのバランス感覚はとても参考になります。

ドラ

一番大事なのは、自分のフィーリングを尊重することです。寂しいときは回りくどいことはせずに「寂しいから会いたい」と電話すればいい。反対に人に会いたくないときはそうすればいいのです。1人の時間を味わうことも重要で、これに関してはフランス人は達人です。美しい景色を眺めながらひとりでお茶を飲んでいるだけでもくつろげますよね。

本日はお話を伺ってリラックスする時間がもっともっと必要だと感じました。

ドラ

日本は温泉という最高のリラックススポットがあるのに!(笑) でもリラックスにしてもケースバイケース。家族でいたかったり、1人で遠くに行きたかったり、恋人と過ごしたかったり、そのときの自分のムード、自分のフィーリングに合ったリラックス法を選択するのが良いのです。周りがやっているからやるのではなくて。

私は仕事のチョイスについても、自分の感覚や本能、スタイルを優先します。それを他の人に言うとあれこれ言われるけど、自分の感覚を尊重します。簡単なことではないけれど、それが自分のスタイルだから。1人の人間であっても、真面目なときもあれば、クレイジーなときもある。そこが面白いし、それぞれの側面を大事にすればいいんじゃないかしら?

INFORMATION

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インタビュー・テキスト:皆本類 撮影:串田明緖 ヘアメイク:伊荻ゆみ 協力:カナルカフェ 芳進堂

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